薪焚き人の記録 ”焔と人と”
ーノルウェイで見た、人と自然の暮らし2013−    

オスロにて

白夜がくれた、豊かな時間。
それは、暮らしを楽しむための時間だった。 ノルウェイの夏は短い。

冬の雪が解け、新緑が美しい季節を迎えるのが5月。6月から7月にかけては、太陽が沈むのは午後11時ごろ。夜が白々と明け始めるのは午前3時ごろだ。
さらに北へ行けば、太陽は沈まない。ご存じの「白夜」である。
旅人である私たちは、夕食でたっぷりワインをいただき、レストランを出ても外はまるで昼間のように明るい。昼酒をしているわけでもないのに、どこか後ろめたい気持ちになる。
しかし、まだ宵の口のような錯覚に陥るので、そのままホテルへ帰って寝るというのはなかなか難しい。
「もう一杯。次はアクアビットでも行くか。」 そんな流れになるのも無理はない。

そして当然のことながらノルウェイの冬は寒く長い。

10月には初雪が降り、冬になれば日照時間は数時間しかない。まさに「越冬」を強いられる暮らしである。 だからこそ、この国の人々は短い夏を思い切り楽しむ。

オスロの南、スウェーデンとの国境に近いフレデリクスタという町に、私が取引している会社がある。社員は7月から8月の間に4〜5週間もの休暇を取り、工場もそのうち約1か月は操業を停止する。
そして平日の終業時刻は午後4時。サマータイムを除けば午後3時で仕事が終わる。
時間になると、社員の何人かは工場裏の浮桟橋につないである自分のレジャーボートに乗り込み、家族と弁当を持ってサーモン釣りへ出かけていく。それも一人や二人ではない。
繰り返すが、平日である。 「うーん……。」 思わずうなってしまうほど、うらやましい光景ではないか。
まさに「時間長者」なのである。

担当スタッフの話では、ボートを持っている人も多いが、夏休みは海辺や山の別荘で過ごすのがごく普通なのだという。

恐るべし、ノルウェイ。
そんなに豊かな国なのかと思い尋ねてみると、返ってきた答えは意外だった。
「オスロの家は曽祖父が建てました。海の別荘は祖父。そして山のロッジは父が建てたんです。」
なるほど、生産性が高いことは間違いないだろう。
しかし、それ以上に私たちとは暮らしの時間軸そのものが違うのだと感じた。

ノルウェイの国土面積は約39万平方キロメートル。日本とほぼ同じ広さである。
一方、人口は500万人弱。東京都の半分にも満たない。
人口密度は驚くほど低い。 そんな国で暮らすとは、どんな感覚なのだろう。 通訳をお願いした、在住うん十年になる日本人女性は笑いながらこう言った。
「どこへ行っても、知っている人か、どこかで見たことのある人にしか会わないんですよ。」
なるほど、そんなものかと思いつつも、その感覚の真偽は、実際に住んでみなければ分からないのだろう。

近所付き合いが少しずつ希薄になっていく日本とは対照的に、この国では人と人とのつながりが、ごく自然に暮らしの中に息づいているように感じた。

たった数日の滞在でそう思わせる何かが、この国にはあった。
いつかもう一度、この国で暮らす人々の日常に触れてみたい。


   

Travel Journal 2013

 










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